想いは、言葉にしないと通じない。
北村薫さんの短編小説です。
10編の短編が収められています。
話という媒体が出てくるせいか、どことなく【ターン】を彷彿とする「恋愛小説」。
水という物質への描き方がものすごく緻密で微妙な表題作「水に眠る」。
痛いくらいに心理的なところをついてくる「植物採集」。
風刺的というか、ちょっとSF的要素があったりして、なんとなく切なくなる「くらげ」や「かとりせんこうはなび」。
二夫一妻制という奇抜な設定の「矢が三つ」。
可愛い女の子が出てくる「はるか」。
よく喋るおじいさんがでてくる「弟」。
受験のために家に泊まっている義妹が主人公に語る「ものがたり」。
ちりちり痛くなる目、「かすかに痛い」。
どのお話も良いのですが、僕は「恋愛小説」と「植物採集」と「ものがたり」が特に気になりました。
ある方のおすすめで、さっそく手にとって読んでみたのですが、なかなか味のあるお話が揃っています。
山本文緒さんの【みんないってしまう】の中のあるお話を彷彿とされる、というご紹介を受けたのですが、まさにそうかもしれません。
内容的にだとか、登場人物がだとか、そういった事ではなく、作中に流れる空気に似たものを感じました。
この作品は一度だけではなく数度通読したほうが、その「味」を味わう事ができると思います。
興味のある方は、数回読んでみられることをお勧めいたします。僕は一度読みだけでは気付かない事がありましたので。
実に意外な展開のもの、謎自体がないもの、また謎が解決されないもの。
いろいろな切り口のお話が並んでいるのですが、お話の事象のみを追いかけていったら「ああ、そう」で終わりがちですが、その背景に書かれたものや、登場人物の心情について考えてみたら、思いもよらない事に気付いたりします。
それらを考えてみるのもまた、この作品の楽しみかと。
ところで、シャンディー・ガフというお酒。
実はこの「水に眠る」を読んで、初めて知り、飲んでみました。
水の舌触り、水の肌触りが印象に残る作品だけに、こういうお酒もあるんだ、とちょっと驚いてしまいました。
もうひとつ、このお話には、11人もの有名な方が解説者として最後に登場しておられます。
まさに贅沢な解説です。
ちなみに、作者自身は「人と人の、<と>に重きを置いて書かれた物語なのである。」というあとがきを残していらっしゃいます。
北村さんは、前に【ターン】を読んで、面白いお話を書く方だ、と思っていましたが、長編のみならず短編も面白いお話を書く人だと思いました。
言葉にできない想いを持っている方、短編作品が好きな方、北村 薫さんのファンの方、におすすめです。