大人になるにつれ、時間はだんだん早くなる。
物事は思った以上に早いスピードで流され、手の内からこぼれ落ちていく。
山本文緒さんの短編集です。
「裸にネルのシャツ」 「表面張力」
「いつも心に裁ちバサミ」
「不完全自殺マニュアル」 「愛はお財布の中」
「ドーナッツ・リング」
「ハムスター」 「みんないってしまう」
「イバラ咲くおしゃれ道」
「まくらともだち」
「片恋症候群」 「泣かずに眠れ」
以上の12編が収められています。
ちょっと寂しいお話もありますが、それぞれの登場人物が、何かをなくし、何かを得ています。
どれも読みやすく、味のある面白い作品だと思います。
個人的には「ドーナッツ・リング」と「イバラ咲くおしゃれ道」が気になりました。
割と最近に、立場も状態も全く違いますが、「ドーナッツ・リング」と似たような経験をしたのでなんともいえない所です。
時間が経ってみてからわかること、そして、もう戻らない時間。
人生というのは「あの時、ああすれば」の繰り返しなのかもしれません。
指輪を外すというのはものすごく重い事のような気がしたりして。
「イバラ咲くおしゃれ道」ではオシャレに着飾る事に命をかけている女性がでてくるのですが、知り合いで似た方がおられまして。
まぁ、着飾ることも時には大切ですね。
彼女の困り具合がそのお知り合いにシンクロして笑えたのでした。
いや、悪い意味の笑いではなく。
何にでも言えることですが、何かを得るという事は難しいのに、何かをなくすというのは簡単な事です。
ついでに、何かを得たという喜びを得るより、何かを無くした時の喪失感のほうが気持ち的に大きいような気がします。
時間だって、人だって、みんな自分をおいてどこかにいってしまうものかもしれません。
最後に残るのは自分だけなのでしょう。
最近何かをなくした事に気付いた方、短編が好きな方、山本文緒さんが好きな方におすすめです。