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□ 著書名         【ゆっくりさよならをとなえる】
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□ ジャンル        エッセイ集
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□ 著者             川上 弘美
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□ 出版社      新潮社   2001.11.20発行   215ページ
            ISBN10-441202-3    1400円 (税別)
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道草したい、日もあるさ。

【センセイの鞄】の作者、川上弘美さんのエッセイ集です。59篇収められています。
僕は【センセイの鞄】で初めて川上さんを知り、どんな人なのかと考えていました。
この本を読んだら、川上さんについていろいろ解ります。彼女の他の作品をたくさん読んでみたくなりました。
(お友達から【蛇を踏む】という作品をすすめてもらいました。
 当時まだ未読だったのですが、この本の中にもちらほらと出てきたので、早く手をつけなかった事を後悔しました)

この方は、考え方というか、表現方法がおもしろい方です。
表現といえば、この人はひらがなの使い方が上手な方だと思いました。
意図して漢字ではなく平仮名で表記されている箇所があります。たしかにその場は漢字より平仮名のほうが感じがよいのです。

ひとつ面白かったのは、川上さんが「悲しかったです」と書くかわりに「空がとても青くて、ジェット機も飛んでいて、わたしはバナナパフェが食べたかった」と書いた、というくだり。
ごく普通の感性をもってして聞いたならば、とんでもなく突飛な表現方法だし、意を得てない、とも思えかもしれません。
しかしながら、よくよく考えてみると、なんだかその情景から、寂しさというものがわき上がるような、まるでだまし絵から見えてくるような、そんな感じがするのです。
ちなみに川上さんはヘミングウェイの文章を読んで、自分は小説や他人に見せる文章を書くことはできない、と思ったそうですが、僕は上にあげた、この川上さんの「悲しい」の表現を見た時に、くしくも川上さんとまったく同じ事を思いました。
僕は小説家にはなれないだろうし、人に見せる文章をこうしてたらたらと書いてはいけないのではないか、と。

川上さんは「いままでで一番多く足を踏み入れた店は本屋、次がスーパー、三番めは居酒屋だと思う。なんだか彩りに欠ける人生ではある」と言っています。
この人って、本が好きで、主婦していて(実は料理はあまりやらないひとだろうか)、お酒が好きで、などなどと考えてしまいました。
とりあえず、食にうるさいひとであろうな、というのは想像に難くありません。
また、よかったのはあとがきにある「難儀もまたよろし」という言葉。
やんごとなき事が多い現在、なんだか救われたような気がします。
僕は「作品」に傾倒できても、「作者自身」にまでは傾倒できない、という風に思っていたのですが、川上さんの文章や価値観や考え方がすっかり気に入ってしまいました。
 

川上さんの事が知りたい方、川上さんのファンの方、におすすめです。

#「蝶々恐怖」で蝉が怖い女性の話。もしかしたら読売新聞の「人生相談」への投書ではないでしょうか。
  それらしきものを読んだのを覚えています。
 

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