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□ 著書名         【おしまいの日】
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□ ジャンル        サイコホラー恋愛小説(?)
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□ 著者            新井 素子
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□ 出版社       新潮文庫    1995/05/01発行
           ISBN4-10-142603-1
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この本は恐いです。
ついでにかなり暗めです。
読後感は悪くないのですが、僕はちょっと背筋が寒くなりました。

怖いと言っても、ワケのわかんない化け物が出てくるとか、血が飛び散るようなスプラッタな怖さではなく、心に訴えかけてくるような怖さです。
その方が現実にありそうで余計怖いのかもしれませんが・・・。
ちなみに、この本の解説にジャンルはサイコ・ホラーって書いてありました。
「ホラー」だけではなく「サイコ」が入るわけですね。

確か、同じく新井素子氏の著書「ひとめあなたに」のあとがきで新井素子氏は「狂っていく女を書くのが好きです」て書いていましたが、この本は、まさしくその「狂っていく女」を描いた本で、日常生活に潜む正気と狂気の狭間を,愛する人を想う心がしだいに孤独によって蝕まれ、狂気に陥った様子を描く作品です。

基本的に小心者な僕はこういった「怖い系」というのはどちらかというと苦手なのですが,頑張って読んでみました。

簡単なあらすじは・・・

専業主婦の三津子とサラリーマンの忠春は結婚7年目の夫婦。
忠春は会社では仕事をバリバリ頑張るサラリーマン、三津子は専業主婦で家を守り、夫婦仲も円満で、と絵に描いたような幸せな生活を送っています。

が、忠春は、来る日も来る日も仕事・仕事で目がまわるくらい忙しく、当然帰りは遅くなります。
三津子はそんな忠春のために、ただひたすら、どんなに帰りが遅くなっても寝ないで待ちます。
忠春の為の夕食を作って,自分も一切手を着けず,深夜になっても午前を回っても、ずっと「日記」を付けながら待っています。
・・・このあたりで,もうすでに普通じゃなくなってきているような気がしますが・・・。
ちなみにこの物語では、この三津子の「日記」がポイントになります。

彼女は、「徹底的に夫につくす」タイプの人で、そして彼女は忠春のことが好きで好きでたまらなく、ただ忠春のことだけを見て、忠春のことだけを想い、忠春のためだけに頑張ります。
もうとにかく何から何まで忠春に依存しており、彼女にとってのすべてが忠春なのです。

三津子は忠春に毎日ちゃんと家に帰ってきて十分な睡眠を取って、いつまでも忠春に元気でいて欲しい、とそればかりを考えているのに、実際,忠春は仕事が忙しくてなかなか家に帰ってこれず、自分の思いは無理なことを忠春に強いるワガママだ、と自分の中に押さえ込んでしまうのですが、そのうち無理がたたっておかしくなり、ついに彼女は精神的に病んでしまいます。
忠春のことを想えば想うほど、その献身が彼女にとっての拘束になってしまったのでしょう。
もしくは、彼が毎日残業や接待で寝る間も惜しんで働くのも、もちろん会社の指示ではありますが、そんな三津子の「一途すぎる恋心」がプレッシャーだったのかもしれません。

そんな日々が過ぎるうちに少しずつ,二人の間に歪みが生まれます。
最初は気付かないほどの小さなその歪みは気づかないが故に大きく成長し、そして彼女を狂わせていきます。
確実に病魔が体を蝕むがごとく、ゆっくりゆっくりと、しかし確実に。

そして、ついに「おしまいの日」がやってきます。

…ラストシーンがどうなるのかは、ここではふせておきます。
果たして「おしまいの日」が何なのか、彼らはどうなってしまうのか興味を持たれた方は、読んでみてください。
あれはあれで物語の終わりなのですが、僕的には少々後味の悪い内容でした。

完全にネタバレなのですが続きはこちらに

作中いろいろな表現があるのですが、どちらかといえば淡々とした描写でして、しかし淡々と描かれているだけに一層壊れていく様子がひしひしと伝わってきます。

さっきも取り上げましたけど、三津子の書く「日記」がポイントです。
印刷がすごく凝っています。
最初見たとき、乱丁かな?とか思っちゃいました。
ところどころ、書き損じのようなものがあったり,黒く塗りつぶしてあったりするんです。
こんな感じで文章が線で消されていたり、ボールペンでぐるぐる消したあととか、ページを破った跡があったり。
その表現がまた、日記を書いている三津子の情緒不安定さや狂気の度合いが伝わってきて、日を追うごとに静かに狂っていく主人公の姿を如実に表現されています。
また僕は悪趣味なのか、消された部分の文章を一生懸命に読みとろうとしてしまいました。
結局正確には解らないのですが、僕はなんとなく三津子の書きたいことが解ってしまいました。
こんな僕もいつか三津子のように狂ってしまうのでしょうか・・・。
・・・だとしたらヤダなぁ・・・。

また、人の愛し方についても考えさせられるものがありました。
狂ってしまうほど忠春の事を愛せた三津子はもしかしたらある意味幸せだったのかもしれませんね。

思わず自分の家庭では大丈夫か?とか不安にかられて思ってしまいました。

内容が内容だけに、結婚前後、妊娠中の女性の方にはおすすめできません。
怖い本が読みたいひとにおすすめです。
 
 

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Copyright(C) Nobuhiko Takano 2002