夫は花になど興味がないが、秀明は「紫陽花の花が咲き始めましたね」と言ってくれた。
いわゆる不倫物です。
この本では、人間の怖さもともかく、不倫というもののリスクも教えてくれます。
独身者と違って、周囲を巻き込んで大騒動になってしまう事のある既婚者の恋愛というものは危険なものなのかもしれません。
ちょっと的はずれかもしれませんが、このお話を読んでいて「役割分担」についても考えさせられました。
簡単なお話の背景は…。
ハウジング会社に勤める、佐藤秀明。
秀明の妻、真弓は、もうじき1歳になる娘の世話と家事に明け暮れる専業主婦の生活に嫌気がさし、保険のセールスレディを始める。
一方、自分の両親、そして自分の子供たちと3世代同居している茄子田太郎が家を2世帯住宅に建て替えようと秀明のモデルハウスを訪れる。
秀明は太郎から契約を取ろうと彼の家に日参するうちに、茄子田家の妻、綾子に恋に落ちる。
また、茄子田が偶然真弓の保険のお客になって……。
…と言った感じで沢山の登場人物が出てきます。
そして、秀明や真弓、茄子田夫妻や同居の茄子田の両親と子供、秀明の同僚・先輩、真弓の上司・同僚など登場人物の視点に入れ替わりながら物語は進んでいきます。
多視点と言う点で、江國香織さんの【薔薇の木 枇杷の木
檸檬の木】を思い出すところがありますが、このお話も特に違和感なしにすんなりと読んでいけます。
そういう意味では読みやすいと思います。
秀明も気になりましたが、登場する女性達についていろいろ考えてしまいました。
秀明の妻、真弓。
彼女、非常に残念ですが、あまり利口な女性とは思えません。
もちろん部分的には彼女に同情するところも、共感するところもあるのですが、あまりに手段と目的の使い方がなっていない人だと思います。
よく「目的の為には手段を選ばぬ」と言いますが、さしずめ彼女の場合は「目的の為には手段を選ばず」と言ったところでしょうか。
不器用な人と言えば聞こえはいいですが、愚かしいところばかり目立ってしまったのが残念です。
茄子田の妻、綾子。
お嫁さんという、実にイメージ通りの素敵な女性だったハズで、とてもよさそうな人なのに、時を追って壊れていく様はぞくりとしました。
マトモに見えた彼女こそ、心に闇を抱えていたんですね。
秀明でなくとも、あの気持ちはわかります。
ついでですが、忘れられないのが茄子田太郎。名前も特徴的ですが、なかなかに強烈なキャラクタです。
意外とこんな人は現実でも見かける事がしたりしますが、「あーいうオトナになるまい」と強く思ってしまいます。
このお話で、秀明の行動から追っていって、少しずつ事実が明らかになって行く時は冷や冷やしてしまいました。
隠し事というのは、良くない事なのかもしれませんね。
ところで、家事労働というものは意外と軽視されてるらしい風潮があるらしいですが、はたしてそうでしょうか。
僕は「主夫」をやることもあるのですが(やってみているからこそ解る事ではありますが)、たしかにそう単純な物ではありません。
めんどくさい物であるのは確かです。
でも、やってやれないものではないのも確かだと思います。
…いや、それはひょっとしたら単に自分が家庭向けなだけなのかもしれませんが…。
僕とは逆で、家庭向けでない女性ももちろんいるかもしれません。 それはそれで「正常」なのかもしれません。
あと、「男だから外で働く。女だから主婦をしなくてはならない」だなんて考えを持つ人は少なくないと聞きますが、果たしてどうでしょう。
こんな固定観念がいまだ世にあるとは信じがたい気もしますが。
このお話に色濃く出てくる、嫉妬や裏切りや打算。
なんとも醜いのですが、等身大かどうかはさておき、ヒトの内面って案外こういったものにあふれているのかもしれません。
他人様が持っている物が良い物に見える、という感情は僕にはあまりないのでよく解らないのですが、やはり他人の芝生は青く見えるものなのでしょうか。
青い芝生を求めるあまり、道を踏み外してしまうようにはなりなくないものです。
現在好きな人がいる方、ドラマが好きな方、「帰る家」がある方におすすめです。