−恋する気持ちをとめることはできない。9人の女たちの孤独と自由と、情熱とため息と。結婚&恋愛生活小説−
9人の女性たちが、それぞれの生活のなかで、恋をしたりされたり、結婚したり離婚したり、浮気したりされたり、妊娠したりしなかったりする物語。
帯のこの文章を読んでしまったあたりで、ちょっとげんなり来てしまいました。たまたまその手のお話を読みたくない気分だったのもあるかもしれません。
ひょっとしたら好きな作家でないと手に取っていなかったかもしれません。
僕はこの手のお話を読むたびに、どーしても他人事だからか、「好きにすれば?」とかって考えてしまいます。
誰といようと、誰を好もうと、どうしようと、結局は自分の思い一つな訳で、それを物語でまで追体験することないじゃないか、と思うのです。
ましてや結婚、離婚だなんて考えただけでも興ざめする反面、恐ろしいですね。
…しかしその逆に物語だからこそ、見てる分には楽しめるのか、とも思ってしまいます。
それは僕自身が、すでに恋愛とかいう一大イベントやら、結婚という大事件も片づけてしまって、終わってしまった、という感を大きく感じるからかもしれませんね。
確かに誰かと一緒になるという事は、打算やら金銭問題、それを取り巻く人間関係などなど、下世話なポイントは忘れてはいけないとは思います。
せめて自分が一番好きな人といる時くらいは、そういったしがらみを意識するのをやめにしたいものです。
現実の世の中で悩む人が多いからこそ、この手のお話が好まれるのかもしれませんね。
さて、物語の内容です。
このお話では、陶子・道子・れいこ・エミ子・草子・衿・桜子・綾・麻理江 という9人の女性が出てきます。
陶子と道子の姉妹を核にして、直接的ではないにしても、微妙に人々が絡み合っています。
こう言ってしまっては何ですが、皆どこにでもいるような女性です。その彼女たちをとりまく人間模様が、彼女たち自身の立場から語られていきます。
それはお互いのパートナーの事だったり、自身の持論を昇華させるものだったり。それぞれに現実味を帯びた設定があります。
結婚の有無。また子供の有無。お互いが友達だったり、店側と客側だったり、実は全く無関係だったりする中で、各人の目線で物語がすすんでいきます。
ちなみにその視点が次々と変わっていくという話の構成のせいで、最初は混乱します。
最初は何の脈略もないようにはじまり、物語が進むにつれて、点が線に変わり、…とそれらが微妙につながっていきます。
正直読み始めしばらくは、あまりにも場面と共に話の主がさくさく変わっていくので、ちょっと混乱しました。
元来、人の事を覚えるという事が苦手な僕は、おかげさまで久々に人物相関図を書いてみたりしました。
この本をちょっとずつ読もうとしたら、それくらいの準備は必要かもしれません。
しかし、ちょっと読み進めるうちにそれぞれのあらかたの人物像が浮き彫りになってきます。
放っておいてもその人物がどんな人なのか、勝手に想像がついてしまうのです。キャラクターが生きている、という感じです。
しかし9人もの登場人物とそれらに付随する人物まで物語にだしてきて、読み手にそこまで思わせてしまうのは江國香織のすごいところだと思います。
各人について語られるページにしても場面にしてもそう多くはないのに、よく書き分けれると感心しました。
おそらくはこの「生きたキャラクター」にせよ、読者から生まれる想像の産物であって、それは実は作者の意図するところでしょうね。
さて、例によってこの物語にも明確な結末はありません。まさに淡々としています。
登場人物たちの人生において、些細な出来事はありますが、このままどこまでも続くような話でもあります。
ドラマのようにエンディングは用意されてはいません。
先に挙げた「生きたキャラクター」のせいか、読後、あの人はどうなるんだろう…と考えてしまいます。
我ながら最初のほうで「好きにすれば?」だなんて言っていたのが嘘のようです。
江國作品っぽい突飛な事を言い出す強いキャラも出てきますが、僕は今回はそれらの人物より物語的にはちょっと枠外にいる女性、綾の事が気になりました。
登場回数も少ないし、物語的にかわいそうな存在である彼女が、何故か気になりました。「アヤ」という名前に固執した訳ではないとは思うのですが…。
そういえば、江國作品らしく実に現実的な小物達も健在です。
お店、食べ物、飲み物、クルマ、登場人物の好みの音楽。どうしてこんなにも魅力的に写るのでしょう。
これは江國作品を読むたびに楽しみな所です。
最後になりますが、この本の装丁はすごく綺麗です。明らかに購買層を意識した、とも思えるのですが…。
本自体の普通のカバーにスケルトンのソフトカバーがもう一枚上に掛かっていて、小説の内容をほのめかすような微妙なカンジです。
この本を買われる人、装丁に惹かれた方も多いのではないでしょうか?
事実、僕が書店でこの本を手に取っているときも周囲は妙齢の女性が多かったような…。
結婚、恋愛に自分なりの解答を持っている、という方にオススメです。