世の中に不変なるものはないんだ・・・
江國さんの童話本です。
アパートなのに、ホテルの名を冠した「ホテル・カクタス」に住む住人たちのおはなしです。
「2」と「きゅうり」と「帽子」というそれぞれ個性的な人(?)たちです。
この変な名前にとまどいましたが、「2」はほんとうに数字の2で、「きゅうり」はほんとうのキュウリで、「帽子」は帽子なんですね。
彼らが人格を持ち、話をして、生活しているわけです。
「2」は役所に勤めていて袖カバーをしていたり、「きゅうり」は健康に気に使っていて、ガソリンスタンドに勤めていたり、「帽子」はハードボイルドだったり。
所々、妙なところでリアルで笑ってしまいます。
そもそも、どーやって「生きて」いるんだ、という大前提がありますが、気にしてはいけません。
真剣に読んでいたら随所でツッコミをいれたくなってしまうのですが、そこはこれ、このお話は童話です。
3人は何となく仲良くなって、部屋に集まってお酒を飲んだり、一緒に散歩に出掛けたりしています。
つらつらと出来事がつづられているのですが、終わりは意外と唐突でした。
「でもそれは、また別の物語です。」
…どこかで聞いた事のある言い回しで締めくくられていました。
しかし、幕切れでは、ちょっと寂しい気持ちになりました。
さてこの話は「童話」というか「寓話」というか「おとぎ話」というか、微妙なところではありますが、するすると読んでいけます。
こういったジャンルは、普通なら、ごくごく子供の時にしか触れる機会がありませんね。
オトナになってしまうと、こういったジャンルより他の分野の本を読まねばならなくなるし、実際興味もそちらに向くようになっていきます。
こういったものには人生訓だとか処世術のようなものが描かれていたりもしますが、この本はまた違うことを教えてくれます。
久しくこのジャンルには気を配っていませんでしたが、ちょっと面白く思いました。
この本はオトナむけの絵本ということで、装丁や挿絵が綺麗です。
カラーで佐々木敦子さんの挿絵が入っています。
窓からみた廊下や、階段や、踊り場などで、人物が出てこないだけに「ホテルカクタス」の雰囲気の想像を助長されました。
巻末によりますと、油絵だそうですが、どれもすてきな絵です。
ところで「カクタス」とは英語でサボテンの意なのですが、それも読了後だとちょっと納得でした。
【ぼくの小鳥ちゃん】という童話的な本を書いておられますが、この本もその路線です。
優しい本を読みたい方、空想気味の方、江国香織さんのファンの方に、おすすめです。