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□ 著書名    【蒲生邸事件】
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□ ジャンル   SF推理小説
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□ 著者     宮部 みゆき
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□ 出版社     文芸春秋  2000.10.10発行  686ページ
             ISBN4-16-754903-4   829円(税別)
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「下士官兵ニ告グ
 一、今カラデモ遲クナイカラ原隊ヘ歸レ
 二、抵抗スル者ハ全部逆賊デアルカラ射殺スル
 三、オ前逹ノ父母兄弟ハ國賊トナルノデ皆泣イテオルゾ」

宮部さんの長編小説です。
700ページ近い(文庫で厚さが3センチくらい)ボリュームを全く感じさせない構成は流石と思います。
二・二六事件が関係してくる、タイムトラベル物です。

主人公は大学受験に失敗し、予備校の試験を受けに上京をした尾崎孝志。 泊まっていた平河町一番ホテルで火災に遭います。
危うく焼死するところを、同宿していた謎の中年男に救い出されます。
その中年男こと平田はタイムトラベルができる時間旅行者だったのです。
火の手で退路を断たれ、平田は孝志を連れて、昭和11年2月26日にタイムスリップします。
たどり着いた先、雪の降りしきる帝都では、まさに2.26事件が起きようとしています。
蒲生邸では蒲生大将が自決し、三宅坂一帯は叛乱軍に占拠されて。
…という感じで物語は進んでいきます。

時間旅行ものの永遠の命題とも言える「歴史を変えることはできるのか?」とテーマと「蒲生憲之の死は自決なのか殺人なのか」というサスペンス仕立てでお話は進みます。
このお話は、SFであり、ミステリでもあるんですけど、それらもともかく、このお話の一番の読みどころは人間模様だと思います。
サスペンスは、自決したハズの元陸軍大将・蒲生憲之のそばには拳銃が見当たらないという事です。
殺人だとしたならば、犯人は誰か、という推理モノな味もあります。
ちゃんと(?)その時に家にいた面々のそれぞれに怪しい所がありまして。
もう一つの読みどころとして、それまで知らなかった事を次々目の当たりにして、懸命に生きる人々と出会い、別れるうちに、見違えるように成長していく孝志の成長していく姿かと。
このお話を読みながら、なにもかもが豊富にあり安全でしあわせな現代から一転して「未来」を知る者の視点と過去である「現在」へ来てしまった孝志の気分でいろいろ考えさせられました。
ラストで、現代に帰り着いた孝志はある人物と再会しようとするのですが、このあたりの描き方もまた面白く感じました。

さて、時間旅行ものでよく語られることで、時間とは「過去を改変した場合に、未来が大きく変わってしまうもの」なのか「細部は変わっても結果はあまり変わらない」ものなのか、というのがありますが、このお話では後者のスタンスをとっています。
歴史の流れ自体は変えられない、という説明は本書の説明を読まれたほうが、かなり論理的で説得力があるものになっていますのでここでは取り上げません。
「時間旅行ができる」という特殊な能力を持っているといえども結局は悲しきものである、というエピソードも加わっています。
このあたりは宮部さんの他作【クロスファイア】などを思い浮かべるところです。

なお、このお話はNHKで映像化されていたようです。
孝志役にいしだ壱成さん、平田役に西村雅彦さんというキャストだったそうです。
見ていなかったのですが、この本を読み終わった今、見ておけばよかったと後悔しています。
 

歴史が好きな方、2.26事件に興味がある方、タイムトラベルしてみたいと思った事がある方、におすすめです。
 

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Copyright(C) Nobuhiko Takano 2004