江國さんの小説です。
主人公のふたりの少年と、年上の恋人のお話です。
ひとりは、東京タワーの見えるマンションに母親とふたりで住む透。
ナイーブで大人びた雰囲気があるけど、行動や考え方などがちょっと子供っぽい性格です。
彼は自分の母親の友人で、人妻である詩史との恋愛にのめりこみ、彼女との恋愛以外には価値を見出すことができずにいます。
もうひとりは、透の高校時代からの友人の耕二。 透とは全然タイプが違う人です。
バイトもきっちりこなし、就職活動にも手抜かりはなく、もちろん勉強はでき、ついでに家も裕福で、自分に自信がある人です。
本当に人を愛したことなどなく、本当にやりたいこともなく、すべてを計算通りに、思惑どおりに、と生きようとします。
個人的にはなんだか気に入らない奴に見えましたが、彼は抜群の行動力があります。
それは日頃から何かと尻重な僕から見て、なんとなくうらやましくも見えたり。
ちなみに彼は、同年代の彼女である由利と、人妻の喜美子の2人と同時に付き合っています。
透は詩史さん以外の人や事が見えておらず、耕二は恋愛において「捨てる」のは自分だと決めています。
両方の少年ともキャラクター的に悪くはありませんでしたが、江國さんにはやっぱり女性の主人公を描いて欲しいような、そんな気がしました。
(思えば江國さんの書く男性の主人公というのは、今までの著作の中でも少ないのですが)
江國流とでもいいましょうか、全編を通して漂う不思議な雰囲気はいつもどおりです。
所々にある微妙な言い回しや、細かい描写も江國さんの作品の魅力ですね。
作中で「待つのは苦しいが、待っていない時間よりずっと幸福だ」という言葉がありました。
割と最近まで僕も似たような経験をしていただけに、なかなかに良い言葉だと思いました。
ふと思ったのですが、誰しも意外な局面で意外な人を好きなる事もあるし、手の届かないところにいる人が好きになってしまう場合もあります。
(あえて「なってしまう」という表現にしたのですが、こういったことは、後戻りできないという事が多いかと。
・・・得てして、それに気付いたときにはすでに遅いものであるかと。)
そういえば、数日のあいだでしたけど、前に僕も東京タワーが見えるところで寝起きしていた事がありました。
朝はなんだか物憂げで、夜は闇の中にすっとそびえたつ光の塔。
特に気を止めていたわけではりませんが、駅まで向かう往復路でなんとはなしに見ていました。
実は東京タワー自体に入ったり、すごく間近で見た事はなかったりしますが、あの建物の存在感というものは大きいと思います。
映画化されまして、さっそく見てきました。公式サイト
けっして万人受けはしないでしょうけれども、なかなか良い映画だと思いました。
詩史さんが黒木瞳、喜美子が寺島しのぶというキャスティング。
原作では喜美子がキライだった僕ですが、映画では断然喜美子がよく見えました。
そういえば吉田の気味の悪さが足りないような気がしました。もっとネチっとしたのを想像していたのですが。
あと、浅野が素敵すぎます。プールで透と対決する辺りは妙に透に同情しながらドキドキしました。
原作と違うラストが用意されたりしてて、なかなか凝っていました。
個人的にはラストは蛇足と感じました。
透を探す詩史の目の前で東京タワーのライトアップが消えるシーン辺りで終了にしておいたほうが良いかもと勝手なことを思ってみたり。
もう一度見たい映画です。
現在好きな人がいる方、かなわぬ恋をしている方、江國香織さんのファンの方、におすすめです。