いろんな国のいろんな街で、美術館にいきました。
そこで出会った絵について書くことは、でも勿論私について書くことでした。
一枚の絵の、線の力や色彩の力を伝えようとすることは、でも勿論文章の力を伝えようとすることでした。
もし私に美しい絵をかく力があったら、この本がかかれることはなかったと思います。
白泉社から出版されている月刊MOEで連載されていたものです。
ある雑誌で「才能あふれる画家達の描いた24枚の絵画に出会った江国香織の感性は、どんな言葉を生み出すのか」とありましたが、たしかに気になるところです。
たとえばゴーギャン。
「ゴーギャンの描くオレンジは食欲をそそる。それは生活のための果物だから。」とあります。
なんとも江國さんらしい切り口です。
美術評論の本を読んだりしても、こんな鮮烈な表現で語られる事がないでしょう。
この本では、他にドラクロワ、ホッパー、東郷青児、バルテュス、小倉遊亀、マティスなど、著名な画家たちと絵について語られています。
画家や絵画に興味の無い方はあまり楽しめないかもしれませんが、何らかの事で彼らの絵を見たことがあるというのを思い出せるかもしれません。
章ごとの構成になっていて、挿絵となって各回の画家たちの絵を見ることも出来るのですが、前に本かなにかで自分が見たことがある絵でも、江國さんの紹介文を読み進めながら今一度その絵を目の当たりにすると、初めて見たこのような、すごく新鮮な気がしました。
児島虎次郎の絵が表紙に小さめにでていて、白くて綺麗な装丁になっています。
最初、美術エッセイというジャンルには違和感があったのですが、読んでみると味わい深いものがありました。
うろ覚えの絵などもあったので、美術書を探ってしまいました。
文中でちょっとマイナーな絵についても紹介されていたりするのですが、覚えがなかったりしたものもいろいろと見て回ってみました。
「好きな作家の好きな絵を探してみる」というなんだかマニアックで病的なものを感じてしまう事ではありますが、なかなか楽しめました。
僕は割と絵が好きなので(ここしばらくは何かと余裕がなく、だいぶ足が遠のいているのですが)たまに美術館に行ったりした事があります。
この本を読み終わって、また美術館に行ってみたくなりました。
ところで、僕はシャガールの絵が好きです。
この本に彼が出てこなかったのがちょっと残念でした。
美術が好きな方、好きな絵がある方、江國香織さんのファンの方におすすめです。