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□ 著書名         【ルー=ガルー 忌避すべき狼】
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□ ジャンル        近未来ミステリ
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□ 著者             京極夏彦
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□ 出版社      徳間書店 2001.6.30 初版
            ISBN4-19-861364-8 1800円  753P
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相変わらず殺人的な分厚さの本での作品です。
この本はページ構成が2段組ではないので、いままでの作品に比べると文字量は少ないとは思われますが、ボリュームはかなりあります。

今回のこのお話、 未来モノです。
この作品を飾るのは、妖怪ではなく、端末と呼ばれるものであるとか、セキュリティシステムであるとか。
いわゆる近未来という事で、横文字が連打されています。
恐らくこういった未来の設定の話は彼の本では初めてではなかったかと思います。
表紙もいつもの京極本じゃない感じがして、書店で見たときにちょっとびっくりしました。

さて、この「ルー・ガルー」とは中世ヨーロッパの、狐憑きならぬ、狼憑きの意味だそうです。
物語の中でも「オオカミは滅びた」という印象的な問答も出てきたりします。

この物語の主人公は、14歳の少女たちです。
時代は、21世紀半ば(2030年ぐらいでしょうか?)で、非常に文明が発達しています。
紹介文から言葉を借りるなら、清潔で、無機的で、均一な世界。
具体的には、現在より清潔さへの観念が進み、人工の合成食肉なるものが開発されていて、子供への教育が学校の廃止と共にそれぞれの資質に合わせて個別のプログラムが組まれており、人々がみな端末なるものを携行し、管理化(位置情報など)の進んでいる、といった感じです。
こんな環境ですので、他人とのコミュニケーションの取れない人が多くなっています。
こんな背景で、14、5歳の少女だけを狙った連続殺人事件が発生する、といった具合で物語が進んでいきます。
仮想現実の世界に住まう彼女たちが直面したリアルな「死」…。

なかなか興味がそそられるこの未来社会の設定ですが、徳間書店から発刊されているある雑誌で読者に募集したそうです。
その影響もあってか、若干物語自体が対象年齢層が低いような気もしましたが、それほどお子さま向けって話でもありません。
この「読者応募の設定を盛り込む」というのは、ある意味で双方向性小説とも言えるかもしれませんね。

話の展開はテンポよく進み、「分厚い本だからすこし分けて読もう」という読者の希望を裏切られる出来の良さです。
物語の最初のほうはちょっと足踏みするような感じなのですが、後半に入ってくると話がぐんぐんと加速してきて目が離せません。
そのままの勢いで最後まで読んでしまいました。
ところで、登場人物の一人で、神埜歩未という人がいるのですが、名字がなかなか読めなくて苦労してしまいました。
他にも微妙な漢字の使い方と言い回しがあるのが、いかにも京極本、という感じです。

話を読んでいるうちに、物語の中で出てくる「モニタ」ですとか「端末」が欲しくなってしまいました。
現在でも、似たようなものが存在していますが、たぶん姿形からして違うんでしょうね。

SFっぽいお話が好きな方、分厚い本でも大丈夫な方、京極夏彦さんがお好きな方、におすすめです。
 

参考リンク : 大極宮
 

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Copyright(C) Nobuhiko Takano 2005