こざっぱり生きてる奴なんてこの世にはいやしねぇ。
「終身検死官」の異名を持つ倉石検視官にまつわる短編集です。
今回は警官や刑事ではなく、検視官に焦点を当てたお話です。
マスコミの人だったり、その他の登場人物にも時折スポットライトがあてられています。
八つのお話が納められています。
事件ごとにわけられた章に、倉石を中心として数人の登場人物が関わって、という進み方です。
この「臨場」という言葉。
辞書で繰ったら「物事の行われている場所に臨むこと」だなんて出てきますが、警察内で初動捜査を示す用語だそうです。
非常に魅力的な主人公の倉石は、検視の権威です。
ヤクザのような風貌で、現場での観察眼は鋭く、誰もが見落としそうなところに気が付きます。
上に媚びる事もなく、かといって下に甘すぎる事もない倉石。
しかし、後輩達には慕われ、倉石から教えを請うた事がある者たちから「校長」と呼ばれています。
お話の所々でも出てきますが、倉石はただ厳しい人ではなく、時として人情味あふれる一面も見せてくれます。
一話がとても短く、読み終わる直前に物足りない感じもしますが、どの話も非常に深く、読み終えた後も考え込まされます。
これらの話をベースにした長編を読んでみたい、と思いました。
不倫関係のその後に悩む登場人物が印象的な「赤い名刺」、意外な親子関係が描かれる「真夜中の長所」と、元部下の自殺の真相を探ろうとする「黒星」が気になりました。
ところでこの本のカバーの装丁。「立ち入り禁止 KEEP OUT」の黄色線だけ手触りが違います。
最初はシールか何かだろうか、と思ったら印刷です。ちょっと驚かされました。
警察モノがお好きな方、短編がお好きな方、横山秀夫さんのファンの方におすすめです。