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□ 著書名         【プラナリア】
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□ ジャンル        短篇集
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□ 著者             山本 文緒
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□ 出版社       文藝春秋    2000.10.30発行   266P
               ISBN4-16-319630-7   1333円(税別)
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損の種をまいているのは、往々にして自分なんじゃないかな。

山本文緒さんの本です。
この本で直木賞を受賞しておられます。
「プラナリア」「ネイキッド」「どこかではないここ」「囚われ人のジレンマ」「あいあるあした」の5編による短篇集です。

共通のテーマは「働かない」、もしくは「無職」ということ。
現実の話、今「無職」という立場にいる人は多いらしいです。
それをさぞ悪い事のようなレッテルを貼りさげすむような人がいたりしますが、なんと下らないことかだと思います。
「個人の意志」などという、いい加減なコトバでごまかしたくないですが、職の有無や生活周りだけで、その人個人の「人となり」が見えるわけではないと思います。
仕事に就いている自分とて、いつこのような状況におちいるかもしてませんし。

表題「プラナリア」とは、切断されても再生するという、ヒルのような形態の川に棲む生き物の事です。
乳癌で乳房摘出手術を受け片方の胸を無くしてしまった春香が、その「プラナリア」になりたいとつぶやきつづける話です。
・・・無くしたものを蘇らせたいという願望か、他者との繋がりの拒絶からか。
いづれにせよ、つらいであろうことは想像できますが自らの病をネタにして人を凍りつかせるような事を言うのは良くないと思います。
しかしこういう場合、周囲も彼女にどう接してよいのか解らないということもあるとは思います。
慰めのつもりの言葉が当人を一番傷つけるということになりかねませんし、的はずれな優しさというものは凶器ともなり得ることがあります。

 「囚われ人のジレンマ」では、心理学専攻でちょっと変わった彼を持つ美都のお話。
25才の誕生日にプロポーズされ、と幸せ側面だけは幸せそうなのですが、その実ちょっとアレです。
大学院生という身分の人と結婚するという事もけっこう深いものがあると思います。
しかし、結婚とはあんなにも打算や夢が渦巻くものなのでしょうか。 とりあえず自分にはなかったような気がします。

「あいあるあした」離婚、脱サラして居酒屋をやっている男、真島と、同棲しているすみ江という女性のお話。
他のお話とちょっと毛色の違うのですが、これはこれで良い雰囲気なお話だと思いました。

それぞれに「持て余し気味」な主人公が登場し、実に不器用な日常を送る様子が描かれています。
しかし、この「不器用」というのは他人の目だからこそ、よく見えるのかもしれません。
あと、あえてはっきり言うと各人、性格が悪いです。
辛いこともあるでしょうし、人としての葛藤だとか後ろめたさがあるのでしょうけど、どうにもこうにも自分の弱さに負けきっている感じです。ちょっと卑屈すぎるというか。
だからといって各人に「前向きに生きなさいよ」だなんて言う事もできませんし、自分にはそんな権利でもなく、そんな立場にもいるわけではありません。

ちょっとしたことで落ち込んだり、すねてしまったり。
人生ってそう困った事が一杯転がっているような気がします。
このお話の人たちはたまたま際だって見えてしまうだけで、実は普通に暮らす人たちもそう大差ないのかもしれません。

各お話のラストは、とりあえず未来に期待が見えてきそうな人や、ちょっと駄目そうな人も。
すべてがすべて光明が見えるわけではありませんが、それなりのラストを見ることができます。
 

現在職を持っておられる方、無職の方、山本美緒さんのファンの方におすすめです。
 

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Copyright(C) Nobuhiko Takano 2004