現代女性の心を解き放つ、小説セラピー
TVにも出ていらっしゃることがある、精神科医の香山リカさんの作品です。
なかなか面白い事を言われる方だと思い、香山さんが出てコメントを寄せているからということであるTV番組を見ていたり、連載されていた雑誌などを読んでいたりしました。
そういえば、彼女のトレードマークの黒縁眼鏡。 ご自身の視力はそう悪くないそうでして、いわゆる「伊達」だそうです。
眼鏡とかつてのもう一つのトレードマークのヘアバンドでキャラを作っておられたとか。
この作品が、香山さんの初の小説になるそうです。
実はこの本が出てしばらくの時に初めて読んだとき、なんだかいまいちな印象だったのですが、このたび読み直してみたら面白い作品でした。
なんと言いますか、表現が文学しているというより、お医者さんしているような雰囲気がありまして、少しばかり情緒が足りないような気がしたのです。
しかし、今の目で読んでみたら、なかなかに面白いお話です。
小説というスタイルを使って行われる精神分析の手法のような場面展開には、ちょっと感心してしまいました。
テーマは現代社会における女性の問題。
このお話は、結婚して男性と暮らす事のみが必ずしもある結末は限らないと考える人たち。
その「人生の夕暮れ」を親しい仲間と送るための女性の集い「空の家」を作った精神科医、湖陶子のお話です。
全体的に一つの流れがあり、何部かの小編で構成されています。
各章のタイトルは童話をもじって、「狼を食べた赤ずきん」とか「求婚者のいないかぐや姫」とか「ピーターパンをなくしたティンカーベル」とつけられています。
さて、その「空の家」に集まるそれぞれに問題を抱えた女性達。
仕事がバリバリできるニュースキャスターだった り、染色家だったりと、傍目では問題ない人生を歩んでいるように見える女性達です。
しかし、実は周囲の期待を負担に感じていたり、何か足りないものを感じていたり、と少なからずキズを負っています。
作中の言葉を借りるなら、「無意識のうちに翻弄されて、微妙に人生設計が狂った、精神の深い森の中に迷い込んでしまった人達」です。
それぞれの女性が心に葛藤を抱えたまま物語が進行します。
もっとも、この本が出て数年を経て、世間の状況も変わりつつはありますが、根底のものは何年経とうと同じものだと思います。
香山さんが実際の診療を通じて「女性が頑張れば頑張るほど不安や不満足感を増長させてしまう」といった事を感じられたことがあるとか。
けして良策、結論が見えるわけではない問題ではありますが、同時に投げてしまうわけにはいかない問題でもあると思います。
ところで、このお話を読みつつ、男性では「空の家」での生活のスタイルはムリかも、なんて思いました。
総じて男性はこういった所は不器用にできているような気がします。
良くも悪くも、女性のようになれません。
差別をするつもりはまったくありませんが「男女の差異」というのは思ったよりも大きいものなのかもしれません。
この本を読みながら、少し路線はズレますが、他人と暮らすことについてフト考えてみたのでした。
いささか寂しい話ではありますが、配偶者といえど、純然たる他人。
よその人と一緒に暮らすと言うことは、なかなかに大変な事が多いと思います。
女性の方、他人と暮らしている方、香山リカさんのファンの方におすすめです。