ありそうでなさそうな、家族の様子を綴ったお話です。
あとがきでの江國さんの言葉のように「よその家をみてしまった」というのが読後の感想です。
「私、もし誰かを殺してしまったら骨は流しのしたにかくすと思う。」
…などと本の帯にショッキングな事が書いてあったりするので、ホラー系のお話を想像として手に取ったのでしたが、そんな事は全然ありません。
誰も死にませんし(違う意味で死を迎える人たちはいますが)誰も殺されません。
よって、誰かが殺されたりして流しの下に入れられることもありません。
さて、物語は家族の視点で進むのですが、この家族ちょっと変わっています。
ある紹介では、
「いまはなにもしていず、夜の散歩が習慣の19歳の私こと子、おっとりとして頑固な長姉そよちゃん、
妙ちきりんで優しい次姉しま子ちゃん、笑顔が健やかで一番平らかな「小さな弟」律の4人姉弟と、詩人で生活に様々なこだわりを持つ母、
規律を重んじる家族想いの父、の6人家族。ちょっと変だけど、幸福な宮坂家の、晩秋から春までの出来事を静かに描いた不思議で心地よくいとおしい物語」
…と、あります。
とりあえず詳しい説明は省きますが、各人変わったところがあるということです。
しかしながらこのあたりは、何を基準にして「普通」とするか、ですけどね。
自分の「普通」の基準だってよそさまから見たら大いにおかしいかもしれないし。
家族という閉塞されている空間での、実に閉鎖的なのに疎通のとれた空気、暗黙の決め事がある。
簡単に言うと、どこの家でも粛然と存在している「お約束事」みたいなのが垣間見れます。
どんな家族でも外から見たら、何かしらおかしなところがあるものなのかもしれません。
ごくごく普通の日常の風景が描かれているだけのに、物語の世界に引き込まれてしまいました。
ところで、この流しの下の骨という単語。
どこかで聞いたと思っていたのですが、童話・かちかち山にもそんなコトバが出てきますね。
タヌキがおばあさんをだまし、縄を解いてもらっておばあさんを殺しちゃって。
おばあさんに化けておじいさんの帰りを待ち、帰ってきたおじいさんに「タヌキ汁」と称して食べさせる時。
「たぬきじるだと だまされて ばばじるを くう じじいよ ながしのしたの ほね みろ」
そこには、おばあさんの骨が入っているんでしょうけども。
・・・僕ももし、人を誰かを殺してしまう事があったら、流しのしたに骨を隠すことにすることにします。
変わった家族とお暮らしの方、うちの家族は普通だ、と思われる方、江國香織さんが好きな方におすすめです。