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□ 著書名        【模倣犯】
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□ ジャンル      推理小説
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□ 著者           宮部 みゆき
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□ 出版社     小学館   2001.4.01初版
          上・ISBN4-09-379264-X   1900円(税別)   721ページ
          下・ISBN4-09-379265-8   1900円(税別)   701ページ
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本当のことは、どんな遠くに捨ててきても、いつかは必ずちゃんと帰り道を見つけて帰ってくる。

宮部さんの長編推理小説です。

上下巻合わせて2段組が1400頁余り続くという分量のもので、小説としてはかなり長いものと言えると思います。
(原稿用紙にすると3551枚、らしいです)
最近はこの本だけではなく、分厚い本が多く出版されているような気がします。
面白いものもあるかもしれませんが、長いだけで退屈なものだったり、読んでいて苦痛になってしまうような、読みにくい作品が多い感じがします。
この作品も出たての時からその存在を知っていたのですが、この厚さ故に尻込みしていて、ちょっと手をつけるのに時間が掛かってしまいました。
読み終わってから思うのは、この長さはこのお話では妥当な、そして必要な長さだったと思います。
たしかに序盤はなかなか話が進んでくれないし、関係なさげな話が続いたりもするのですが、宮部さんならではの優しい語り口やストーリ展開で読んでいて飽きさせません。
特に物語が終盤に差し掛かると目が離せなくなりました。反面、結末を急ぎすぎたような気もしたのですが…。
微妙なタイミングでいろいろな登場人物が交錯しており、「この人どんな人だったっけ?」と何度も前に戻ってしまいました。

お話は、公園のゴミ箱から女性の右腕が発見されるところからはじまります。
発見した少年というのが、別の強盗事件で家族を殺され心に傷を負う塚田真一という少年。
同じ公園で、その右腕とは違う持ち主のハンドバックも発見されます。
そのバッグは、行方不明であった古川鞠子という女性のものでした。
その祖父、有馬義男も否応なしにこの事件に巻き込まれてしまいます。
何故に事件に巻き込まれるのが古川父母ではなく祖父なのか、というとちょっと複雑な家庭環境もありまして。
一方、失踪した女性を取材しながらも見通しのないそのルポを仕上げることに意欲を持てずにいた前畑滋子。
…などなど被害者側、犯人側、警察側、マスメディア関係者、などなど何人もの人物が絡み合って、物語は進んでいきます。

女性連続誘拐殺人事件を核に、真相を追うミステリー的な楽しみと、事件に関わるこの様々な人たちの心情が読みどころです。
しかしながら、斬新な設定だと思います。
ただの残虐な連続殺人事件というわけではなく、作中でも「舞台劇」と表現されるこの犯罪。
劇場型の犯罪というのは実際にも多数起こっていますし、推理小説の語り口としてはもはや手垢のつきかけたジャンルのような気がします。
しかし、手法こそありふれていたものでも、このお話ではそう思いませんでした。
登場人物の心の動きのすべてがすべてしっかり明記されているわけではないのですが、それだけに読者はいろいろと想像をかき立てられ、おそらく、と言った感じでその登場人物の心情を推し量る、という所がまた上手い書き方かと思いました。
被害者側の事ももちろん忘れられないのですが、犯人側の視点が上手く描かれていると思いました。

ネタバレになってしまうので委細は書きませんが、真犯人がボロを出すに至った出来事。
これはちょっと結末として弱いような気がしました。
たしかに伏線も十二分に張ってあるし、読みながら「ああ、なるほど」と思うのですが、決め手としては少々弱いようにも思えます。
多分、この作品が2流のミステリであれば、このネタでも十分通じたかもしれませんが、積み上げられたものが全然違うので、知らず知らずのうちの勝手に期待をしていたフシもありますが。

【R.P.G】にも出ている武上刑事や秋津刑事が登場します。
(正確にはこのお話より後に書かれた話なるのですが)
向こうにもちょっと書きましたが、知らなくても大丈夫だけれども、両方を知ったらより楽しめる、という具合でして。

このお話、映画化されています。
網川浩一役にSMAPの中居正広さんが演じていました。
オフィシャルサイトができています。
さっそく映画のほうも見てました。
友人が「最後の20分くらいしか見なくて良い」と忠告してくれましたが、つい全部見てしまいました。
まぁ、たしかに。ちょっと酷い内容かもしれません。
原作と違っている所などもあり、見る価値はないわけではないような気もしますが、原作のみで終わっておいたほうが無難かもしれません。
残念ですが、映画館に行ってまでみる内容ではないと僕は感じました。
 

推理小説が好きな方、分厚い本が読みたい方、宮部みゆきさんのファンの方、におすすめです。
 

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Copyright(C) Nobuhiko Takano 2004