人間の習性から離れれば離れるほど、人は、罪という言葉を与えたがるものだ。
9つの短編が収められています。
共通のテーマは「罪と罰」です。
殺人だったり、放火だったり、覗きだったり…。
あからさまなものもあれば、罪とは呼べない罪、罰とは呼べない罰も入っています。
僕は「熱いジャズの焼き菓子」と、「YO-YO」が気になりました。
どちらも読みながら「ちょっと待って!」と思うのですが、結末よりも、お話として進む時間に吸い寄せられました。
どちらの話にしても「こんな関係、面白いかもしれない」そう思いました。
もう一つ、違う次元で描かれている「最後の資料」という最後にある短編。事実があるだけに私小説的です。
事実というのは亡くなった義弟のお話なんですが、なんとも辛いお話です。
いまさらながら、肉親と別れるという意味について考えてしまいました。
このお話、すごく文学っぽいアプローチで描かれているのですが実に読みやすく、娯楽的でもあります。
「そんな、まさかね」と他人事で読んでいるうちに「自分も罪を犯す可能性を秘めている」という事にふと気づかされます。
大げさに犯罪と呼ばれないにしても、誰もがなんらかの罪を犯しながら生きていることと思います。もちろん僕も。
そう思えば、清廉潔白な人物というのはあまりいないと思います。
人の心というのはわからないものだし、事と次第によっては簡単に誘惑に負けてしまうことでしょう。
何かの背景があって、それに関わる人の気持ちなんて解らないものですね。
このお話を読んでから、新聞やニュースの報道記事を見た時、事件の背景からなどを考えてしまいました。
ドラマのような事はないにしても、なんらかの事があったのか、と事件について考えてみてみたり。
表紙の、銀色の「MAGNET・AMY YAMADA」の文字が黒色のバックに映えてオシャレな装丁です。
ところで、山田詠美さんは長編よりもこういった短編のほうがより一層魅力的なのでは、と思いました。
罪を犯した事がある方、罰を受けた事がある方、何か心当たりのある方、におすすめです。