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□ 著書名    【共生虫】
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□ ジャンル   引きこもり小説
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□ 著者      村上 龍
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□ 出版社      講談社    2000.3.1発行   293P
              ISBN-4-06-210027-46   1500円(税別)
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共生虫を体内に飼っている選ばれた人間は…。

いわゆる「引きこもり」をしている青年が外に出ていくようになっていくお話、と表現してみると良いお話っぽく見えますが、内容はそう明るいものではありません。

この引きこもりの青年こと、ウエハラは過去に共生虫というものを見てしまい、それが自分の中に入ってきている、と錯覚を起こしています。
引きこもりをしているだけあって、ウエハラは一日中家に籠もりっきりで、ほとんどを何もせず過ごしてきました。
後に現実の人間と話をする場面もありますが、序盤ではウエハラはインターネットを通じてしか外界と触れ合っていません。
そのうち、インターネットに関心を持ったウエハラに母親は喜んでパソコンを買い与えます。
あるホームページの掲示板で、自分がの中にいる虫が「共生虫」である事を知り、 「共生虫は、自ら絶滅をプログラミングした人類の、新しい希望」であり、「共生虫を体内に飼っている選ばれた人間は、殺人・殺戮と自殺の権利を神から委ねられている」と教えられます。
もちろん、共生虫だなんていうものは、実在はしないと思います。 …たぶん。
そういう事を真になって語る、というのも、いわゆるネット上における悪質ないたずらであるのですが、ウエハラはこの誤情報によって、行動力を得て外に出るようになり、「自分は選ばれた人間なのだ」などとウエハラに力を与えてしまい…。
…と言った具合でお話は進みます。

ちなみに、あるところでこの本の事を「この青年の姿を通じて、現代日本のインターネットの問題をあぶりだす一冊」などと紹介されていましたが、これはいかがなものかと。
世間に明暗があるように、ネットの世界にも良いところと悪いところがあるのは確かです。
しかし、暗い部分をクローズアップして、世の中のネットに免疫のない人にこういった情報を与えてしまうというのも、あまりよろしくないものだと思います。

思えば、「引きこもり」だなんて差別的に言ってみても、思ってみれば生きている皆それぞれが、なんらかの状況の中に引きこもっているように思えます。
もちろん、僕もその例外ではありませんが。
 

引きこもりをしている方、インターネットが好きな方、何らかのMLに参加しておられる方、におすすめです。
 

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Copyright(C) Nobuhiko Takano 2004