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□ 著書名         【きらきらひかる】
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□ ジャンル        恋愛小説
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□ 著者             江國 香織
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□ 出版社       新潮文庫    1991.5.5発行   244P
              ISBN4-06-183094-5   360円(税別)
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私たちは十日前に結婚した。
しかし、私たちの結婚について説明するのはおそろしくやっかいである。

ゲイの人とアルコール中毒の人が夫婦な話って言ったら、ヤバい内容の本なのか?と思われるかもしれませんけど、別に変な話ではありません。
設定だけ見るとめちゃくちゃ複雑で、危険なイメージが付きそうですが、作者によるところ「ごく普通の恋愛小説」だそうで。
いくらなんでもこのお話が「ごく普通」ってことはないと思いますが、恋愛のスタイルたるや、まさしく人それぞれでしょうし。
これはこれでありなのでしょう。
この本を読んでいて、僕は「無償の愛」とはこういう事なのか、と思いました。表現が少々不適切かもしれませんが。

睦月と笑子という夫婦が主人公です。
笑子は情緒不安定のアル中、睦月は俗に言うゲイな人で、幼なじみだった紺という愛人(当然男性の方です)がいます。
そんなふたりは二人の性癖(?)をお互い理解して、すべてを納得し、許しあって結婚しました。
現在のままで何も変わらずに暮らしてゆけたらいいというのが二人の願いです。
普通の人(二人の両親や友人たち)や傍観者には理解できないかもしれないけれど、二人は幸せみたいです。

睦月と笑子と紺の奇妙な関係は、すごいバランスで保たれています。
ロマンチストで健康好きで潔癖で、職業が医者の睦月、子供っぽくて自虐的で躁鬱な笑子、そしてその間にいる紺。
情緒不安定なこの3人ですが、美しい純粋な人間模様を感じさせてくれます。
この奇妙な関係の三人の物語がこんなに暖かいのは、三人ともが誠実で、純粋だからなのでしょう。
だからこそいろいろなことに傷ついて、でも、それでも大切な場所を守ろうとする・・・。
手荒に扱ったら壊れてしまいそうな、ガラス細工みたいな関係です。
一見するともろくて壊れそうだけど、意外に「強さ」はありそうな。
どちらかといえば重いお話のはずなのに、読後感が悪くないのは、人への思いやりがいっぱいのお話だからでしょうか。

あとがきで江國さんは「素直にいえば、恋をしたり信じあったりするのは無謀なことだと思います。どう考えたって蛮勇です」と言っています。
まさにその通りかもしれません。

ところでこの作品、映画化されています。
…が、映像として見るよりも文章で読んだ方がいいと僕は思ってみたりもします。
ちなみに映画のキャスティングは、豊川悦司(睦月)、薬師丸ひろこ(笑子)、筒井道隆(紺)でした。
どなたかのファンの方が映画版を見て、この小説を手に取るケースも多いとか。
そういえば同名のドラマもありました。題が同じなだけで、全く違うお話でしたが。

さて、「江國香織ヴァラエティ」(新潮社)のほうで「ケイトウの赤、やなぎの緑」という書き下ろしの小説が掲載されています。
これは10年後のきらきらひかる、だそうです。
僕は「10年後の」という所よりも、あるキャラクタが気になりました。
 

自分の一番好きな人は誰だろうと思った事がある方、愛について悩んだ事がある方、江國香織さんのファンの方、におすすめです。
 

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Copyright(C) Nobuhiko Takano 2004