最悪の出だし、途切れる会話、激しい動揺、重苦しい沈黙。
ドラマ・「古畑任三郎」「王様のレストラン」や、映画・「ラヂオの時間」「みんなのいえ」などの脚本を書いておられる三谷さんの本です。
ちょっと映画・「ラヂオの時間」の話になるのですが、とても面白い作品だったので思わずDVDなども買い込んでしまいました。
そのDVDの特典映像で三谷さんは、インタビューに非常に流暢に答えておられるのです。しかも英語で。
あれを見ている限り、決して喋るのが苦手、だなどという雰囲気はありませんでした。
他にも何かのTVのゲストでお話をしておられるのを見た事があるのですが、人見知りっぽい感じこそすれ、さほど酷いものではなさそうに見えました。
(しかし、何故だか「変わった人」っぽい雰囲気というか、オーラは立ちこめていますね、この人。)
…が、この本を見てみると、三谷さんという人はかなり対談というものを苦手とされる方だと思わされます。
最後のあたりでもういちど書きますが、このあたりは、恐らく三谷さんの加筆修正の妙もあると思います。
登場するゲストの方を列挙してみると…。
八木亜希子さん、十朱幸代さん、西田ひかるさん、日笠雅水さん、桃井かおりさん、鈴木蘭々さん、
林家パー子さん、緒川たまきさん、平野レミさん、森口博子さん、加藤紀子さん、安達祐美さん、石田ゆり子さん
…ジャンルは多岐にわたっていますが、いずれも第一線の人だと思います。
そのゲストを前に、「間」ができたり、あきらかに会話がすれ違っていったり。
もう、読んでいるこちらが冷や汗をかいてしまうような、まさに気まずい雰囲気が漂ってきます。
これがまた読みどころでもあります。
また三谷さんは「この本は二人芝居の戯曲集であり、人見知り克服HowTo本である」とも言っています。
なるほど、たしかにそうかもしれません。
かくいう自分も初対面の人に話をするのが割と苦手なのですが、でもいくらなんでも「間」に困ったからといってモヤシと枝豆と納豆と豆腐は全部同じ大豆なんです。…ってのはちょっと言えません。
そういえば、ここのところよくいろんな事をお話する方がいるのですが、ふと、その人との会話を思い浮かべてしまいました。
おーむね盛り上がって話が進んでいる(…と少なくとも僕は思う)のですが、時折ビミョーな「間」があったりするのです。
ついつい、何らかのネタを引っ張り出してきてしのごうとして頑張るのですが、空回りしてしまうこともしばしば。
相手の方の「ナイスフォロー」によく助けられるような気もします。
あと、本の中で「フリートークの名人となっていく様が、ここには描かれています」という事が書いてありますが、これはどうでしょう?
もしかしたら、この本で三谷さんに一杯喰わされているのかもしれません。
これが最初のほうにちょっと書きかけた、加筆修正の妙だと思うのです。
つまり、三谷さんは「対談が苦手で人と話すのが苦手」という役を、上手にこなしておられる、と。しかし、それはそれで面白いのですが。
(笑)マークがあってもなくても、その場の雰囲気が想像できてしまうなんて、こういう文章を操る三谷さんの力はすごいなぁ、と思いました。
人と話すのが苦手な方、会話の糸口に困ってつい雑学っぽい事を語り出した事がある方、三谷作品のファンの方におすすめです。