希望も絶望も全て海峡の光の中にあると思った。
少年刑務所で看守として働く主人公の前の現れた一人の受刑者が、子供の時にいじめの首謀者だった、というお話です。
小さい頃行われたいじめというのもけっこう陰湿なものらしく、「私」こと、斎藤を標的にして執拗に繰り返された、との事で。
そのいじめの扇動者の花井という人物は、だいぶ曲がった人らしく、小さい時からかなり底意地の悪いところがあるようです。
優等生の外見を装いつつ、実に狡猾に、そして執拗に斎藤をいじめていきます。
先生や同級生には解らなくとも、斎藤は花井がそのような人物であったという事は見抜かれてしまいます。
しかし、結局、最後まで上手くかわされてしまって、斎藤は花井に仕返しもできぬまま、転校を迎えた花井と別れることになります。
そして、18年もの歳月を重ねて、看守と受刑者、という形で再会します。
花井と再会した斎藤は、刑務所内でも模範囚を演じつづける花井がいつかボロを出すことを期待して観察していきます。
そもそも、かたや看守、かたや受刑者。
斎藤がその気になれば、報復がてら、花井をいじめ返すことだってできるのに、彼はそういう事をしません。
たしかに過去の事を根に持って、というのはよろしくないかもしれませんし、そんなことでは片付けられない何かがあったのかもしれません。
いささか斎藤の心情は理解できなくもないけど、やっぱりわからない所もありましたが…。
ところで、お話のなかで「静」なる女性が出てくるのですが、どうにも僕には彼女の登場の意図が理解できませんでした。
ひょっとしてこの人物が?!、などと読みながらいろいろ想像してしまいましたが、アテはすべてはずれてしまいました。
純文学仕立てのこのお話。もう少しページが多くてもよかったのかもしれません。少々物足りない所を感じてしまいました。
斎藤が函館少年刑務所の看守になる前まで、青函連絡船で働いていたのですが、僕も何度かこの青函連絡船に乗ったことがあります。
お話の中でも青函連絡船からみえる函館山などの情景について語られていますが、たしかに優美なものでした。
美しい函館湾の描写や景色に、ふと郷愁にかられました。
もうひとつ。このお話のなかにある、国営の国鉄から民営のJRへ移行したという国鉄民営化の事も忘れてはいけないことかもしれません。
函館に行ったことがある方、青函連絡船に乗った事がある方、辻仁成さんが好きな方におすすめです。