影は、どこまでもついてきた
凄腕の「ノビ師」である真壁修一は「ノビカベ」と呼ばれ警察にもマークされるほどの腕前。
この「ノビ師」の「ノビ」は「シノビこむ」から来ているそうです。
ちなみに、昼間に誰もいない家に入る泥棒が「空き巣」で、深夜、人が寝静まったところに入るのが「ノビ師」だそうです。
他にも「ハボク」やら「ウキス」やら「バンカハズシ」やら、こっちの世界のいろいろな用語がでてきて、ちょっと勉強になりました。
このノビカベ、彼には暗い過去があります。
司法試験を受け、法曹界を目指す秀才だった彼ですが、十五年前に家が火事になり、両親と弟を失います。
これは弟の不祥事が原因でして、その不祥事というのは弟がいわゆる「空き巣」を行った事が露見した、という事でした。
結果、弟の行く末を悲観した母親が家に火をつけ、弟と父、母を同時に失うという痛ましい事件となりました。
この事件がきっかけで真壁は闇の世界に落ちることとなりました。
しかし、この死んだはずの弟の啓二はどういうわけか真壁の中耳にいます。
啓二と真壁は話すことができるようになり、時には共同で作業を行ったりするようになります。
兄の脳内(中耳)で会話を繰り広げます。
精神的な存在というか、俗に言うところのオバケみたいな存在です。
普通、「死んだはずの誰それの声が聞こえて」などとオカルト的な要素を含みだすと急に現実味を失うものですが、このお話はそんな事もなく、普通に読むことができました。
(恐がりの僕がちっとも怖く感じないくらい)
「消息」「刻印」「抱擁」「業火」「使徒」「遺言」「行方」の7つのお話を収めた連作短編集ですが、ストーリーは繋がっているので、一つの長編としても読めます。
ちょうどクリスマスを過ぎた最近でしたが、「使徒」が特に良かったです。
ご兄弟がいる方、悪さをしたことがある方、横山秀夫さんのファンの方におすすめです。