このお話は「グリーンレクイエム」から「緑幻想」へと続く物語です。
「緑幻想」の話をしたいのもやまやまなのですが、そうしますとどうしても物語の核心に完全に触れそうなので、とりあえず「グリーンレクイエム」のほうにウェイトをおいていきます。
突然ですが、このお話において「嶋村信彦」という人物が出てきます。
同じ名を冠している「信彦」の僕から見たら、なんだかちょっと違和感があったり・・・
あ、ちなみに両作品の表紙を描いておられるのが「高野文子」という方だったりします。
…だからどうしたっていう話ですが、僕にとっては、この本が面白い小説であるが前に、作中で「信彦」「信彦」言われるものですから、なんかくすぐったいような感じがするのですが。
名前って何か不思議ですね。
で、内容のほうですが・・・
腰まで届く緑色の長い髪の娘・三沢明日香と、その明日香に恋した嶋村信彦のお話です。
嶋村信彦は幼い頃、三沢明日香と出会います。
緑の植物に囲まれての明日香の緑の髪が信彦に衝撃的に記憶に深く刻まれます。
その為からか、信彦は大学に進んでからの研究も、植物に関する研究に懸命に取り組むようになります。
そして数年後、信彦は明日香と再開を果たします。
「恋人は研究」と言い切るほどの信彦は、明日香への好意に気付いたものの、明日香の気を引く事がなかなかできません。
…とまぁ、ここまでの流れだったら、ごく普通のラブストーリーなるのですが、だんだん明日香の変わった特徴が明らかにされます。
なんと、明日香は光合成ができるのです。
ご存知のように、普通の人間として生を受けたならば、植物の専売特許であるハズの光合成なんて出来ません。
ですが明日香はできるのです。それは彼女の生い立ちに大きな秘密があるのですが。
少々変わった、どころか端的に異常とも言える明日香は当然ながら現代医学(?)の世界から見たら、「めずらしいサンプル」で、かつ「貴重な研究対象」なわけで、かつてから明日香とその家族の秘密を知る松崎教授に追われる事になります。
そして信彦は、「狩られてしまう」運命にある明日香を教授達から必死で、守ろうとするのですが・・・。
…と、また迂闊なところまで書くと、話の内容をどうしてもばらしてしまうことになってしまうので、なるべくそういう事態はさけたいのでこのあたりでとどめておきます。
ちなみに設定だけを並べて見てみたら、ちょっとひょうきんなものに見えてしまったりしますが、中身は実にせつなくてよい感じのお話です。
一応、ジャンルとしてはSFものに入るようですが、これは充分にラブストーリーだと思います。
この本の紹介文に「ショパンのノクターンが全編をつつむ…」とあるのですが、たしかに夜想曲が似合いそうなお話です。
ノクターン、夜想曲としてショパンの代名詞の如くの存在なのですが、それってどんな曲?という方はこれを聞いてみてください。
どこかで聞いたことがあるはずです。
題目からして「レクイエム」ってだけに、作中にちらほら音楽用語(?)が見え隠れたりします。
実はクラシック音楽が好きだったりする僕はそのあたりも興味が引かれたところなのですが…。
なかでも、明日香がピアノを弾くシーンは印象的でした。
この作品を読んでいて思ったのですが・・・
もし、もしもですけど、植物が生きていて (いや、実際にちゃんと生きているには生きているですけども) 人間が植物にとって悪意をもって「刈ったりしようかな」って手を伸ばすと「殺さないで」とかって語りかけてきたら、どうしますか?
そういった断末魔(?)の悲鳴が聞こえないからこそ、僕は庭の草むしりとかも平気でできるわけで、そんなリアクションが帰ってきたなら、恐ろしくて除草だなんてできませんよね。
「雑草」としてそこらの小さな草木を無惨に切り捨てて、ちょっと綺麗な花をつけるような草の種を植えたりするっているのは、ひょっとしてものすごく残酷なものなのかもしれない…。
僕は自分の家の庭を見ていてちょっとだけそう思いました。
だから、町内総出で行う公園の草むしりはやめよう!などと別の問題の事も考えてみたりするのですが、それは別に植物を擁護する考えからではなく、日曜の早朝とかに起きるのが単にヤなだけの僕の思いだったりしますけど…。
あと、このお話では、人間の持つ異質なものへの好奇な目であるとか、その研究の為なら何も顧みず、どんな手段をも講じてしまう「恐さ」が描かれています。
誰しも好奇心というものは少なかれど持つもので、科学、生物学などを志す人だったらなおさらであろうと言うのは想像にたやすいことなのですが、同時に「理性」も持って欲しいものだと思いました。
これは小説に描かれるまでもなく、我々が生活している現代社会でも起きているようですが・・・
なお「グリーンレクイエム」にはそのほかにも2編の短編小説が納められています。
週に一度だけの食事でいい。ホントにそんな体質になれたら。全世界のあらゆる食問題も解決できるかもしれない「週に一度のお食事を」。
どんなお願いでも、3つのお願いを叶えてくれるという魅力的な悪魔が出てくる「宇宙魚顛末記」。
どれも面白いお話です。
短編というだけありまして、ページも少ないのですぐに読めるかと思いますので、軽い気持ちで手にとってみられる事をおすすめします。
で、「グリーンレクイエム」でラストが気になったら「緑幻想」を読んでみられることをおすすめいたします。