かつてハードカバーで発売されていた作品ですが、文庫版として発売されました。
…というのも、実はいわゆる「未読」状態でほったらかしだったんですが、機会があったのでこのたびちゃんと読んでみました。
この作品、いわゆる少年マンガ(少年サンデーとか少年マガジンといった)を思い起こさせる作品です。
内容もそれっぽいといえばそれっぽいですし、妙に健全なあたりでそう思うに至るのでしょうか。
著者は「タイム・リープ」なる作品も手がけた高畑京一郎です(自分的にはこちらも面白かったので、後日取り上げます)
ちなみに「ダブルキャスト」と言う題についてですが、プレイステーションゲーム「やるどらシリーズ」の「ダブルキャスト」とはまったく別の話です。
ですから、平松晶子さん演じる「記憶喪失」の女の人とかも出てきません。
コトバの話ですが、「ダブルキャスト=二重配役」となります。
この本の意図を考えてみたら「二重人格」を差す意味ともとれるかもしれませんね。
姓は川崎と浦和と違うのですが、「涼介」なる同じ名前を持つ二人の話です。
この「涼介」という名前についても「頭文字D」なるマンガで同じ名のヒトがいたなぁ、とかついつい余計な事も思いついたりしますが、やはり関連性はまったくありません(当たり前だ)
さて、内容ですが…
川崎涼介は、廃墟となったビルの屋上から転落し、意識を失った。
見知らぬ家で目覚めた涼介は自宅へと向かう。だがそこで目にしたのは自分の葬式だった――。
浦和涼介は、帰宅途中に見知らぬ若者の転落事故に遭遇する。惨事に直面し、気を失う涼介。
不可解な記憶喪失の、それが始まりであった――。
川崎亜季は、まるで亡き兄のように振る舞う見知らぬ少年に困惑していた。
だが彼女は知ることになる。 自分に迫る危機と、自分を護ろうとする「心」を――。
…と、こんな感じで物語は始まります。
「ある人が死んで、他人の体に心が入り込んでしまう」という手法はかつてから小説、漫画で使い古されかけているネタです。
ついついこういったネタに出会うと、設定の矛盾、穴を探してしまうのですが…。
しかし。そうと解っていても、この作品はついつい結末が楽しみになって、結局食い入るように最後まで読まされてしまいました。
この「読ませるチカラ」というものは、いろんな本でも感じますが、まさしく著者のチカラですね。
「常識」をもとにしたところでの設定の無理さ加減などは、もう気にならないくらいにストーリーに引き込まれてしまいます。
それに加えて文章の構成、話題の振り方。どれをとってもかなり絶妙なものです。
一つとして例を挙げると、章の始めの「・・・涼介は」という書き出しで始まる文章が、ちょっと先まで読まないとそれが「浦和涼介」を指しているのか、あるいは(浦和の身体を借りた)「川崎涼介」なのかわからなくしてあるところがあったりして、そういった演出もなかなか面白いと思います。
名を同じにすると活字ではストーリーがわかりにくくなってしまう、というのを逆に演出に利用した好例だと思います。
正直、話が進むにつれてエピローグもあるていど予想ができてしまいましたが、これはこれで実際にエピローグを見ると安心しました。
この「思い通りでよかって」っていう思いも作者に意図された安心感に思えて、してやられた気がしてしまいます。
ライトノベル、少年マンガが好きな方におすすめです。