地響きがすると思っていただきたい
京極夏彦の小説です。
本来なら「姑獲鳥の夏」ですとか「魍魎の匣」ですとかの話を書きたいところですが、自分的にちょっとそれらの作品よりインパクトが大きかったので、このタイトルを取り上げてみます。
冬場ならともかく、夏も近づく季節には暑苦しい本です。
これは「小説すばる」なる雑誌に連載されていた短編を集めたものです。
ちなみに書名はこれで「どすこいかっこかり」と読みます。 何故「仮」なのかちょっと謎ですが…。
内容の前に、本自体の話を少し。
本そのものの体裁が、すでに本作のギャグの一部になっています。
…なんといいますか、本自体が「肥って」います。
カバーは「汗」を目指して表現したのか、何か嫌な加工がしてあるし、本の見返しも脂っぽく見えます。
よく見たらページの角が丸く裁断されていますし。
奥付はスタンプで押してあるし、まさに「ここまでやるとは」の世界です。 ものすごく凝っています。
ひょっとしてこの装丁だけでも、定価1900円の価値があるのではないのかと思ってしまいました。
辞典とかそこらの学術書もそこのけの分厚さですし。
(…いや、だからと言って中身の価値がないと言っているわけではありません)
恐らく京極夏彦ファンしか買わないであろう状態の本なのに、この価格で出版してきているあたりに集英社ってすごいのかなとか思ってしまいます。
赤字になるのか黒字になるのか見当もつきません。
ちなみに、最近「(安)」と名前がつけられて文庫版も発売されました。
…で、内容ですが、本の外見にふさわしく(?)まさに暑苦しい小説です。
とにかくキーワードは肥えた人、と言いますか力士、つまりおすもうさんです。
この本、構成もちょっと面白いものでして、前の作品がその後の作品の作中作という設定になっています。
で、京極夏彦がペンネームを変えて、以下の作品を書いたことになっています。
「四十七人の力士」 新京極夏彦
「パラサイト・デブ」 南極夏彦
「すべてがデブになる」 N極改め月極夏彦
「土俵(リング)・でぶせん」 京塚昌彦
「脂鬼」 京極夏場所
「理油(意味不明)」 京極夏彦
「ウロボロスの基礎代謝」 両国踏四股
…ペンネームはともかくとして、どこかで聴いたような題名が並んでいますね。
見ればわかるとおり、タイトルはかつてのベストセラー小説のパロディですし、内容も一部の設定を借りたパロディもどきといったところです。
設定と名前を借りているだけなので、特にもとの本のネタを知っておく必要はないかと思われます。
せいぜいで知ってた方が楽しめる程度です。
ちなみに、キーワードが力士だけに、すべての話に相撲の四十八手が登場してきます。
そういえば作中で「頭捻り」に固執しているようなフシがあるのですが、京極氏は、なんか気になるところでもあるのでしょうか。
ブッ飛んだ設定もともかく、ホントに酷いとも言える掛け合い漫才が連発されていますが、失笑しつつなんとか最後まで読み続けれます。
人によってはツボに入る人もいることでしょう。
そういえば作中の中で、京極氏は本作品のことを馬鹿小説だとか散々に言っているシーンがありますが、そう言いつつも、何か自信のようなものが見え隠れするのは気のせいでしょうか?
しかし、終始完全に馬鹿話に徹しているところが素敵ですね。
これで京極氏は"ギャグ小説家"としても生きていけるかもしれません。
この本、まさに京極夏彦だからこそ出せた本でしょうか。普通の作家だったら、何人ものベストセラー作家を敵に回したくはないでしょう。
でも特に悪びれる風もありませんし、京極夏彦恐るべし、です。
帯に元ネタにされた作家陣のコメントがそえてありました。ちょっと怖いような怖くないような…。
しかし京極氏はどんな表情でこの作品を書いていたのでしょう?
本当に「姑獲鳥の夏」などと同一著者とも思えません。(良い意味でも悪い意味でも)
2度目はけっしてないでしょうが、新たな分野を狙った「実験小説」と言えるでしょう。
笑える本を読みたい人におすすめです。