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□ 著書名    【ドリアングレイの肖像】
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□ ジャンル   短編集
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□ 著者       ワイルド
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□ 出版社     新潮文庫 1962.4発行 325ページ
              ISBN4-10-208101-1 448円
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芸術家たるものは道徳的な共感をしない。

普段僕は和訳モノはあまり手を出さないのですが、あるお友達の影響で読んでみました。

たぐいまれな美貌と純潔な心を持つ若い貴公子、ドリアン・グレイはだれの心をもとらえてやまない。
画家バジルも芸術的霊感の源であるドリアンに一途な思いを寄せている。
バジルは旧友ヘンリー卿に自分の作品のモデルとなったドリアンを紹介する。
ヘンリー卿は優雅な身ぶりと精妙な魔力を持った言葉を用いて、人間の本性を切り開く数々の警句を放つ。
美を最高の価値と掲げ、青春のはかなさを警告する。
ヘンリー卿にドリアンはたちどころに魅せられてしまう。
折しも完成した肖像画を前にしたドリアンは自分の美貌に初めて打たれ、放心したように叫ぶ。
「生身の自分は老いて醜くならず、画像が、身代わりにそうなってくれたら、魂でさえも出そう!」
奇怪にも若者の高慢と激情にかられた願いは叶えられ、ドリアンは美と引き換えにその魂を売ることになり、無垢な純潔な心を次第に失っていくのだった…。

…というのがあらすじです。

美青年ドリアングレイが快楽主義に墜ちてゆく様子がポイントです。快楽主義と一言で言ってしまっては解らないかもしれませんが…。
ドリアンの堕落、ヘンリー卿の悪魔的思想、そして画家バジルの破滅。
まさしく人間のワガママな部分と、愛すべき愚かさが描かれています。

ところで、お話に出てくるドリアンの代わりに歳を取るという肖像画。
僕も、ちょっと欲しい、だなんて思いました。
僕ではなく、僕の好きな人を描いてもらう方向で。
…しかし、やはり自分と同じく時間を過ごすのと同じく、自分の好きな人にも同じく歳をとって欲しいような。
確かに現在、もしくは過去の若い姿でいて欲しいという思いはありますが、時間と共に得る年輪もその人の魅力になるのではないか、などと思ってみたり。

僕の好きな人。
初めて出会った頃からは髪型が変わったり、心境の変化や過ごす人の影響か、現在持つ表情も少々変わりました。
過ごした分だけ歳も取り、本人は「肌が…」とか言いますが、僕の目からは幾分もその輝きが落ちたようには思えません。
むしろ僕の評価点は加点されているくらいです。
どう変化しても僕の視点からの姿は変わらないのでしょうね。
きっと、こういう想いは加齢による変化などには左右されないものなのでしょうね。
これはもしかして、ある意味ドリアンの肖像画なのかもしれません。

さて、このお話、文章が実に詩的なのですが、所々「?」と思うところがありました。
和訳が悪いという意味ではないのですが、なんだかしっくりいきません。
何度と無くくじけそうでしたが、頑張って読みました。

作者、ワイルドは他に「幸福の王子」などの著作がありますが、同性愛で投獄された経験があるそうです。
今でこそやや寛容に見られる(?)同性愛ですが、英国で当時は犯罪だったとか。
 

快楽主義の方、美への執着がある方、洋書好きの方に、おすすめです。
 

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Copyright(C) Nobuhiko Takano 2005